目次
刊行にあたって(櫻井義秀・稲場圭信)
まえがき――社会に貢献する宗教の比較社会・文化学(櫻井義秀)
総説 ソーシャル・キャピタル論の射程(櫻井義秀)
1 「無縁」から「絆」の時代に
2 社会形成に必要なソーシャル・キャピタル
3 ソーシャル・キャピタル論の思想的系譜
4 ソーシャル・キャピタル論と社会分析
5 宗教文化にソーシャル・キャピタルを読む
I 宗教研究とソーシャル・キャピタル
第一章 ソーシャル・キャピタルと宗教(櫻井義秀)
1 宗教縁は社会を救えるか
2 宗教とソーシャル・キャピタルの調査研究
3 アメリカの教会とソーシャル・サービス
4 タイの上座仏教寺院と社会開発
5 日本における宗教的ソーシャル・キャピタル
第二章 現代日本における伝統仏教と社会活動への参加――全国調査データの計量分析(寺沢重法)
はじめに
1 宗教と社会活動への参加をめぐる議論
2 データ
3 分析
おわりに――ソーシャル・キャピタルとしての伝統仏教
II 宗教による社会貢献の諸相
第三章 賀川豊彦の孤独と協同組合――自然・宗教から社会関係資本へ(濱田陽)
1 協同組合とソーシャル・キャピタル
2 自然資本と宗教資本
3 社会関係資本を導いた総合的人間性
4 新たなる社会関係の潜在力
第四章 軍事組織における宗教と聖職者(石川明人)
はじめに
1 アメリカ軍のチャプレン制度
2 従軍チャプレンたちが考えていること
3 日本の軍事組織におけるキリスト教伝道
4 キリスト者自衛官と一般のキリスト教会との葛藤
おわりに
第五章 中国政府の宗教政策と「公益」活動――チベット系仏学院の震災救援活動を通じて(川田進)
1 中国における信教の自由と宗教活動
2 青海省大震災と仏学院の救援活動
3 玉樹の民族・宗教事情とダライ・ラマ十四世
4 ソーシャル・キャピタルとしての仏学院
5 中国政府が求める「宗教の社会貢献」
column
○ロシア正教会の復興(井上まどか)
○ヨーロッパのタイ寺院(ティラポン・クルプラントン)
III アジアの諸宗教がつくるソーシャル・キャピタル
第六章 中国と東南アジアの華人社会――民間信仰と結びついた慈善団体「善堂」(玉置充子)
はじめに
1 中国――潮州地方の善堂
2 タイにおける善堂の発展
おわりに
第七章 イスラームとソーシャル・キャピタル(高尾賢一郎)
はじめに
1 イスラームの「ソーシャル・キャピタル」性
2 サウジアラビアとイスラーム
おわりに
第八章 ヒンドゥー教と福祉(岡光信子)
はじめに
1 インドにおける公的な福祉政策
2 ヒンドゥー教の社会観と世界観
3 近代のヒンドゥー教社会改革運動
4 現代のヒンドゥー教に見られる社会改革の流れ
おわりに――ヒンドゥー教内部の改革運動の限界と課題
第九章 「開発」のなかの仏教僧侶と社会活動――タイ東北地方スリン県の「開発僧」ナーン比丘の事例研究(泉経武)
はじめに
1 「開発の時代」と仏教僧侶
2 ナーン比丘の開発活動――スリン県ムアン郡ターサワン村
3 考察
column
○韓国キリスト教会における福祉活動(中西尋子)
○ソロモン諸島の民族紛争とアングリカン教会(石森大知)
あとがき(櫻井義秀)
前書きなど
まえがき――社会に貢献する宗教の比較社会・文化学(櫻井義秀)
(…前略…)
本巻の構成
第I部「宗教研究とソーシャル・キャピタル」では、本叢書の主題であるソーシャル・キャピタルについての基礎的議論を解説していく。総説と第一章において、櫻井義秀がソーシャル・キャピタル論の思想的背景と社会科学的分析について概説する。その上でアメリカのキリスト教とタイの上座仏教の事例を紹介し、宗教とソーシャル・キャピタルの関連を研究する方法論について解説を加える。第二章では寺沢重法が欧米社会で主流となっている計量社会学的手法によって日本社会のソーシャル・キャピタルと宗教(とくに伝統仏教)との関連を比較検討する。
第II部「宗教による社会貢献の諸相」では、社会貢献という光と影、陰影の部分をより強調した論争的課題を配した。濱田陽は、賀川豊彦の社会事業を貫く賀川独自のキリスト教思想を述べる。石川明人は、戦場において自らの危険を顧みず兵士の心の支えとなるチャプレンや自衛隊所属のキリスト者の活動を通して宗教の社会貢献と宗教的正義の相克を描き出す。川田進は、チベット仏教の学院復興や四川大地震の支援活動を通して、チベット人(ダライ・ラマをはじめとする僧侶)の求める高度の自治に神経をとがらす中国政府に対抗するチベット仏教僧の動きを解説する。社会貢献を促される中国宗教にあってチベットの蔵伝仏教とウィグルのイスラームは喉のとげとも言えよう。
第III部「アジアの諸宗教がつくるソーシャル・キャピタル」とコラムでは、各地の宗教伝統や近年の教団による社会事業から、宗教とソーシャル・キャピタルの関連を描き出す。第六章では、玉置充子が中国とタイの華人系慈善団体、第七章では高尾賢一郎がサウジアラビアにおけるイスラームの福祉政策、第八章では岡光信子がインド社会における宗教と福祉、第九章では泉経武が、タイの上座仏教僧が開発主義の政治を主体的に内面化し、独自の開発理念と実践を生み出した社会開発を描き出す。
コラムとしては、井上まどかがロシア正教の復興、中西尋子が韓国キリスト教会の福祉活動、石森大知がソロモン諸島における聖霊派教会の社会活動、ティラポン・クルプラントンがヨーロッパにおけるタイ上座仏教寺院の拡大について報告する。
最後になるが、本シリーズと本巻の構成は、二〇〇七年から〇九年まで助成を受けた日本学術振興会科学研究費基盤研究B(2)「宗教の社会貢献活動に関わる比較文化・社会学的研究」で構想し、研究を進めたプロジェクトの所産であることも記しておきたい。