目次
小原秀雄著作集 まえがき
3 哺乳類の世界
はじめに—哺乳類、その人間以前の世界
第1章 自然における哺乳類の位置とその世界
(1)哺乳類は最高密度に発達した動物
(2)哺乳類の複雑な世界
(3)哺乳類のとらえかた
第2章 哺乳類の特徴
(1)「け」もの、「哺乳」類
(2)多様な哺乳類
(3)哺乳類の形態と系統
第3章 哺乳類の種
(1)哺乳類の種内変異—種内の多様性
(2)「種」「亜種」を分つもの—変異のまとまり
(3)種を「分つ」ことと種が「ある」こと
(4)種の個体—多様な中で統一を持つもの
第4章 哺乳類における種の世界
(1)自然における種の世界
(2)種の個体と空間
(3)哺乳類の内的世界
第5章 種の生態と行動—運動形態
(1)生活様式と行動
(2)行動のしくみ
(3)習得と知能
(4)種の生態
第6章 哺乳類から人間へ—哺乳類進化の問題点を探る
(1)ヒトは哺乳類の一種
(2)哺乳類の進化
(3)哺乳類学の世界
あとがき
4 哺乳類
はしがき
第1章 子どもを生み育てる動物
(1)哺乳類の特徴としての「子育て」
(2)胎生と哺乳の発展
第2章 種の成員を育てる
(1)母と子の自然史的起原
(2)保護のしくみの発展
(3)種社会の成員となる
第3章 個体性の発達と種社会
(1)種社会を構成する諸条件
(2)種の進化と種社会
(3)種社会における個体性
第4章 寿命は語る—個体と種
(1)哺乳類の長命記録
(2)個体性とその死
(3)寿命と種、その自然史
第5章 哺乳類の種と類
(1)存在の単位としての種とその分類
(2)哺乳類の特徴と種
第6章 生物界における哺乳類
(1)原始的哺乳類
(2)大型哺乳類の世界
(3)小型哺乳類の世界
第7章 哺乳類の世界を支配するヒト
(1)生物界の変遷
(2)新しい哺乳類の世界
小原秀雄著作集 第2巻 あとがき
前書きなど
小原秀雄著作集 第2巻 あとがき
文字通り哺乳類の世界が、ここにまとめられている。ただし、私の哺乳類の世界である。自然科学的認識としては「私の」を付すのは、全く「外れた」方法といえるだろう。だが、実際に動物学徒としての自分が辿ってきた途をふり返ると、「私の」認識である。私は子どもの時から動物、特に大型哺乳類について知りたいとひたすら想ってきた。能力はともかくもそのような点では「研究者魂」は今も失っていない。
しかし、一方では現在も一層深まっているのは、「人間(ヒト)」に対する「知」的欲求である。この欲求は、私の軌跡で読み取っていただけようが、その想いが動物としてその焦点である進化の上で発達した哺乳類を探求する際にも含まれている。この巻にはその想いが結実しながらも進化史上にヒトの出現の前史としての哺乳類を調べた結果としての哺乳類「像」がまとめられている。
一つの種を地道に追うという研究者の方法ではなく「類」としての哺乳類の持つ世界を調べ、その調べた成果を綴っておこう。明確にそのような意図でここに哺乳類の「世界」と哺乳類そのものについてまとめた。
今でこそ、哺乳類についての研究が諸外国では盛んになり、かえって最近では傍流になってしまった。つまり盛りを過ぎたといえる。ということは、盛りがあったのである。しかし、日本では霊長類は別として哺乳類研究は七〇年代ではほとんど博物館と動物園に限られていた。動物園では展示と飼育動物の管理のための獣医とが中心であった。小中の教科書に登場する動物は昆虫と家畜とであり高校ではサルの「社会」といったありさまであった。書籍でも翻訳か図鑑であった。
ある点での日本の動物認識のユガミは今なお続いている。妙な精密さでマスコミには「キタキツネ」が代表するように、ついには亜種名まで登場し、一方でテレビでは野生動物を「かわいい」といっていじりまわす。ペットの増加は最近一〇倍にものぼりペットの「世界」は花盛りとなった。それは哺乳類の世界への窓とならず、「知」の対象としてもなっていない。捕鯨への対応に見るように欧米での動物愛護は野生動物の保護へ多くの人を動かしている。
だが、日本では盆栽に象徴されるような心象からか、「類」への視点はもちろん「世界」にも拡がりは未だしである。この巻は動物への科学的視点から哺乳類を確かな見方で認識する自らの流れが浮かび上がってくる一巻となった。データは総て一九七〇年代である。埋めるべき穴は多い。生物学の発展の本道と見られる研究から外れているのは充分承知しているのだが、なお私の哺乳類「像」と「観」を呈示する。自然史的存在として地球上に生まれ、人間を生みながら、その人間によって毛皮や角、牙などを搾取されて姿を消しつつある哺乳類へ、哀惜を込めながら「私の」自然「誌」としてこの巻を読者にさし出したいのである。