目次
刊行にあたって
序説——現代中国の「文化」とは何か
第一章 現代中国の美術(陸偉栄)
第一節 アヘン戦争から辛亥革命まで
第二節 民国期の美術(1919〜36年)
第三節 日中戦争時期の中国美術(1937〜45年)
第四節 新中国の美術
1 文革までの美術(1949〜66年)
2 文革期の美術(1966〜76年)
3 転換期の美術(1977〜89年)
4 1990年代の美術
第五節 主な美術家
斉白石/徐悲鴻/劉海粟/豊子ガイ(りっしんべんに豈)/蒋兆和/傅抱石/林風眠/司徒喬/李可染/李樺/王式廓/力群/董希文/黄新波/古元/石魯/黄冑/方増先/陳逸飛/羅中立/陳丹青/徐冰/方力鈞
第二章 現代中国の音楽——古代から現代までの流れ(孫玄齢)
第一節 中国音楽の歴史
1 輝かしき幕開け——太古から夏、商の音楽(紀元前8000年〜前11世紀)
2 群星きらめく時代:音楽史上初の頂点——西周から戦国の音楽(前11世紀〜前221年)
3 大河の奔流:吸収と融和の時代——秦、漢代から六朝の音楽(紀元前221〜紀元589年)
4 盛世の音:音楽史に輝く絶頂期——隋唐、五代の音楽(581〜960年)
5 発展する民間音楽——宋元時代の音楽(960〜1368年)
6 多種多様な彩り:体系の形成——明清時代の音楽(1368〜1911年)
第二節 中国民間音楽の成り立ち
1 民間歌曲——民歌
2 民間歌舞音楽
3 民間器楽
4 説唱(語り物)音楽
5 戯曲(伝統演劇)音楽
第三節 近現代、当代の中国音楽
1 脱皮のはじまり——近代(1840〜1919年)
2 苦難のなかの前進:奮闘の軌跡——現代(1919〜49年)
3 新生と発展——当代(1949年〜)
第三章 現代中国の演劇(魯大鳴)
第一節 中国演劇の流れ
第二節 近代の演劇
第三節 中国の地方劇
第四節 「国劇」としての京劇
第四章 現代中国の文学(1)——新中国から改革開放まで(潘世聖)
第一節 現代中国文学の源流
1 近代中国文学の舞台
2 近代文学の誕生
3 30年間の近代文学の軌跡
第二節 1949〜66年の文学——「延安文学」の持続と延長
1 政治との連動:度重なる批判運動
2 社会主義文学の構成:新たな文学の性格付け
3 創作の実態:農民の物語と革命英雄伝奇への収斂
4 他の作品および異色を帯びた作品群
第三節 1966〜76年の「文革期文学」——先鋭化した「延安文学」
1 政治的権力による文学の「専制」的支配
2 文学の一元化の頂点:「模範」文学の様相
3 苦難の時代の産物:「地下文学」
第四節 「文革」後〜80年代——現代文学の再構築
1 歴史的転換:過去の清算と新しい時代の到来
2 新しい文学の出発:「傷痕文学」「反思文学」および「改革文学」の出現
3 詩の輝き:既成詩人の復帰と探索者の躍進
4 新たな展開:伝統文化の再発見と「尋根文学」
5 形式と技巧への憧憬:モダニズム文学の様相
6 生活への帰還:新写実小説と新歴史小説
第五節 90年代——20世紀最後の展開
1 時代の変化に同調した文学の多元化・個人化・商業化
2 歴史の多角的把握:新歴史小説の深化
3 物質主義・実用主義への抵抗:理想と精神的価値を重んじる作品
4 社会的現実に対する観照:底流としての写実主義小説
5 フェミニズムにともなって:女性文学の台頭
第五章 現代中国の文学(2)——21世紀の中国文学(張競)
第一節 さまざまな試み
1 多様化する長編小説
2 新しい世代の文学
第二節 媒体とジャンル別の動き
1 インターネットと文学表現
2 周縁化する中・短編小説
3 詩歌、戯曲、ノンフィクション
4 エンターテイメント文学の登場
第三節 海外の中国語文学
1 華人・華僑作家たちの活躍
2 台湾、香港の文学動向
むすび
あとがき
前書きなど
あとがき
本書は中国の歴史文化という大きな流れを念頭に置きながら、1949年以降の中国美術、音楽、演劇と文学を中心に、現代文化を点描したものである。本書を通して窺えるように、この半世紀来、中国文化は大きな変化を遂げた。しかも、その劇的な変化は現在なお進行中である。
現代中国の文化を語るのに、文学と芸術しか取り上げていないのは、文化の序列化を意図したものではない。すなわち、サブカルチャーが文学や芸術と比べて、一段と低いところに位置するもので、文学や芸術は現代文化のなかでも上位に位置し、かつ文化を代表する主要な部分である、と考えたからではない。将来を展望するとき、むしろ、後者の方により目を向けるべきなのかもしれない。実際、今日の文学がまだ文化のピラミッドの頂点に位置しているかどうかはかなり疑わしい。今後はさらなる変動が予想されるであろう。
その意味では、本書は『現代中国の文化』というより、『現代中国の芸術と文学』という書名のほうがふさわしいかもしれない。実際、この本は現代中国の芸術と文学を紹介するものとして構想され、執筆者の人選においてもその点を優先した。
それでも書名を『現代中国の文化』にしたのには理由がある。1949年から1976年という歴史時期に焦点をしぼったとき、文学と芸術は今日に比べて、かなり違った重みをもっていた。経済開放が実施されるまで、文学と芸術はずっと政治宣伝のためのものと見なされ、行政のきびしい管理のもとに置かれていた。そのような位置づけは現代文化のあり方をもある程度規定した。文化の連続性という意味では、建国30年間の文化は近代以前と近代以降をつなげる重要な部分であり、その影響は今日でもさまざまな面に影響を及ぼしている。実際、今日の文化を知り、あるいは今後の文化の行方を見通す上で、この30年間の文化史的経験は大いに役立つであろう。
目次を見てわかるように、通常の「文学と芸術」という言い方と違って、本書の記述は芸術−文学の順になっている。中国文化に予備知識のない方々にもわかりやすいようにするための布置であるが、一方、現代における芸術と文学の関係の変化を念頭を入れたものでもある。流行音楽やテレビドラマ、映画の消費に象徴されるように、通信情報技術の進展によって、今日の芸術表象とその伝播の仕方には革命的な変化が起きた。人間関係をつなげる媒体のなかで、かつて活字が担っていた部分は以前より後退し、芸術と文学の相関関係も大きく変容した。その点において消費文化が急拡大する中国と、ポストモダン時代の真っ只中にある日本とはそれほど大きな違いはない。そのことを意識して、あえて芸術を文学の前に置いた。(後略)